坂田 豊光  (中央大学経済学部兼任講師)
 
 
ユーロ圏にとって好都合な強いドル発言
(2009年12月15日)
 

ユーロドルは11月25日に約1年4カ月ぶりの高値となる1.5145を付けたが、足元では本格的調整が訪れている。テクニカル分析の側面からは、それ以降4回も高値更新を狙ったが、フェイルしたことが調整の要因として指摘できる。執筆段階ではザラ場ながらチャート・ポイントとなる11月3日の安値1.4621を抜き、3月からのサポートラインも抜けているため、10月の安値1.4480が視野に入ったと言える。もっとも、ユーロ高への懸念発言はユーロ圏要人からも既に聞かれているところでもあり、インフレ圧力への懸念がないなか、同圏にとって輸出競争力の側面からある程度のユーロ安は問題ないハズだ。

3日のECBスタッフ経済見通しは10年の経済成長率をプラス0.1〜プラス1.5%としており、ユーロ圏が景気後退局面から脱却することが見込まれている。これも一つの判断材料として、ECBは直近の理事会で緊急措置としての1年物と6カ月の物資金供給の打ち止め時期を公表しているが、景気の腰折れは拙くユーロ高による輸出競争力低下はユーロ圏にとって好ましくない。ECBスタッフ経済見通しで使用したユーロの対ドル相場は1.49であることからも、冒頭で述べた1.5145はtoo strongと考えられる。

こうした背景もあってか、トリシェ総裁の強いドルをサポートする発言が注目される。直近(3日の理事会後の記者会見)においても、明らかに強いドルを望む趣旨の発言を行っている。ECB総裁の立場にあって、弱いユーロを望むとする発言はできないが、「(強いドルについて)ガイトナー財務長官と、バーナンキFRB議長の誠意を信じている」(ロイター)は問題ないところだ。繰り返される米国側の「強いドルは重要」発言はトリシェ総裁にとって渡りに船とも言えよう。

他方、ユーロ圏内部からもユーロ安要因が台頭している。先週英格付け会社がギリシャ国債の格付けを引き下げ、米格付け会社がスペインのアウトルックを引き下げたことから、一部のユーロ圏のソブリンリスクがクローズアップされ始めている。ただ、こうした懸念が、単純にユーロを売り込むほどの材料になる可能性は低いと見られる。今次の世界金融・経済危機に際して、既にEUとしては非ユーロ導入国である中・東欧の一部に支援枠を設定していることから、ユーロ導入国のギリシャやスペインの窮地を見過ごしにすることは想定しづらいからだ。もっとも、本件がユーロ圏全体の財政規律に対する懸念につながる様であれば、その場合はユーロに一段と下落圧力が強まろう。(2009年12月11日記)

 





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