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◆ ETFの時代は来るか

◆ 日本ETF誕生の背景

日本で運用新商品が生まれる際には、しばしば市場や金融関係者の切羽詰った状況が背景になることがある。「中期国債ファンド」といえば、2001年の三洋投信による元本割れ事件が思い出されるものの、一応世間では安全確実な運用商品というイメージがある。だがその商品開発には、1980年前後の中期国債大量発行という財政的な問題をクリアするという意味もあった。

また今ではすっかり人気商品になったJ-REITの導入も、不良債権問題の後始末としての不動産の受け皿作りという面が無かったとは言えない。勿論、不動産市場を金融の一商品として育成するという理念が背景にあったのは間違いないが、直接的な意図として銀行問題が強く意識されていたのは事実である。

そして同時期に導入されたETF(Exchange Traded Fund)もまた株価対策といった面が強かった。2003年2月に、当時の竹中経済財政・金融相が「絶対儲かります」といって失笑を買った事件で一躍有名になったETFは、その後も順調に拡大を続けているが、2001年に導入されたその直接的契機が、やはり一種の株価対策であったことは否めない。

ETFは、通常の投資信託と違って機関投資家などが保有する株式をインデックスに沿って受益証券と交換する仕組みで設計されるが、それが持合い株の解消や含み損を抱える保有株式減らしなどの手段として利用された面もある。

そういう意味では、J-REITもETFも当時の日本の特殊事情を反映した商品開発だ、と意地悪く位置付けることも可能だが、その後の発展過程を見れば結果オーライとでも言えるような気もする。危機対応はそれなりの果実を生む、といったところだろうか。但し、ETFもJ-REITも、加速のついた投資信託拡大のペースにはまだ追いつけない。

だが、海外市場では強烈なスピードでETF市場が拡大している。東証がNYSEなど海外取引所との連携を深めることで、海外ETFが日本でも簡単に買える日が来るという予想もある。仮にそうなると、現在日本中で巻き起こっている投信ブームにも変化が起きるのだろうか。ETFが運用のマーケットを変える、そんな時代もいつかやってくることになるのだろうか。

◆ 2006年のETF市場

2006年は、海外市場でETFが大きく拡大した年でもあった。Financial Research Corporation(FRC)の統計に拠れば、昨年のETF総資産総額は前年比37.6%増加して5,739億ドルとなっており、2000年末の656億ドルから6年間でほぼ10倍の規模となった。FRCは2010年にはこれが1兆ドルに達するとの見通しを公表している。またMorgan Stanleyは、2006年に上場ETFの総数がほぼ倍増に近い1,055件に達し、ETF Managerの数も50社から64社に増加したと分析している。

勿論、こうした数字は7兆ドル規模のMutual Fundや1.4兆ドルに達したHedge Fundなど市場の主流を占めるビジネスと比べればまだ勝負にならず、限界的な存在に過ぎないとも言えよう。だが次の質問への答えを知れば、ちょっとETFも気になる筈だ。

「2006年の米国市場で最も取引の多かった株式の上位3社を挙げなさい。」

GEとかGM、Exxon、或いはWarMartあたりを思い浮かべる人も多かろうが、正解はS&P500連動ETF、NASDAQ100連動ETF、そしてRussell200連動ETFなのだそうだ(因みにこれは本年1月22日のFT紙からの引用)。トップのETFはSPDR(スパイダー)と呼ばれる人気商品で、一日平均で100億ドル以上の取引があると言われる。

こうしたETFの隆盛を牽引しているのは、Isharesのブランド力を活かして驀進中のBarclays Global である。全世界の49.6%とほぼ半分のシェアを握る同社のETFが抱える運用総額は2,848億ドルに達し、ETFのパイオニアであり世界第二位のState Street Globalの約3倍の規模を誇っている。

ETFは、1990年にカナダのトロント市場に上場されたのを以って嚆矢とするが、米国では1993年にState StreetがS&P500をトラッキングする商品として開発されたのが最初である。前述したSPDRがそれであるが、その創世者である本家State Streetの「凋落ぶり」は否めない。ETF市場ではBank of New Yorkのような新規参入組も増えている。また、商品ETFなど新規ETFを手掛けるプロバイダーや、日本でも「長期投資」に関する著作で有名なウォートン・スクールのシーゲル教授が参画するWisdom Tree、アクティブな新商品を続々開発するClaymore、Power Sharesなども市場の注目を集めている。

その一方で、Mutual Fundの雄であるFidelityは一本のETFを有するに過ぎない。またIndex Mutual Fundで世界最大のVanguardはETFの品揃えの姿勢を見せてはいるものの、徐々に拡大し始めた「ファンダメンタルETF」、つまり時価総額をベースにするのではなく利益や配当などを尺度に投資対象を選択するETFの考え方を批判するなど、従来のIndex型Mutual Fundを基本に置く戦略に変化を変えていない。

その辺りに、伝統的なMutual Fundビジネスと台頭するETFビジネスとの「静かな戦争」を感じない訳にはいかない。それは「投信フィーバー」が蔓延し始めた日本の運用業界に対する、新たな物語の前触れのように思えなくも無い。

◆ 日本のETF市場

前述したように、ETFは日本でも2001年に「特定の株価指数に連動することを目的に運用される投資信託」として導入されている。一般の株式と同様一日中いつでも売買が可能であり、信用取引も出来る。その「時価」も場中はリアルタイムで観察可能だ。因みに投信の場合は、一日一回計算される基準価格が頼りである。

だがETFの最大のメリットと言えば、通常の投資信託よりも信託報酬が安いことだろう。例えばTOPIX連動型の場合、投信の料率が年率平均で0.70%程度であるのに対し、ETFは0.24%程度となっている。この差は、長期投資の場合は結構効いてくる。

但し、一方で売買に対して株式と同様に売買手数料がかかるため、頻繁に売買すればその手数料の負荷が重くなる。投信は最近ノーロードも増えており、その意味では投信の方に分があるという人もいる。さらにその売買の際には、これも株式と同様に売値と買値の建値というスプレッドが存在するのも、デメリットだと言えなくもない。だが、全般的に見て、ETFのメリットは徐々に投資家の間に浸透してくるようにも思われる。

現在日本で上場されているETFは14件ある。その殆どが日経225かTOPIXに連動する商品であり、他には電気機器株価指数と銀行業株価指数の連動型があるに過ぎない。猛烈な勢いで膨張している米国や欧州と比べれば、日本のETFはまだ投信の陰に隠れた存在に過ぎない。

このようにまだ認知度の低い状況ではあるが、今後海外ETFが飛躍的に拡大する可能性は高い。金融商品取引法の施行により、届出義務の撤廃や運用報告書交付義務の撤廃などが進めば、その動きは加速化されるだろう。現在、弊社でも実験運用として海外市場でのETF売買を行っているが、そこでのメリットは、海外市場へのアクセスの容易さと商品市場へのアクセスの容易さ、そしてその管理手数料の安さである。各市場間でロング・ショート戦略を行うことも簡単だ。

例えばインド株式に投資する際、投信であれば数少ない運用会社の投信を選択するしかなく、販売手数料を3%取られた上に信託報酬も2%程度取られる。つまり初年度はいきなり5%のマイナスから始まる訳だ。これではたまらない。

また商品に関しては商品ファンドが選択肢となるが、ここでも購入する際に手数料で2-3%を取られ、管理手数料や成功報酬などがチャージされる。だが最も懸念されるのはその運用残高が極めて小さいことだ。有価証券市場を見慣れた人間には、10億円程度の商品ファンドの規模は如何にも小さ過ぎる。また金とか石油といった特定の市場を対象にしようとすれば商品先物しかないし、それもローカルな東京市場なので対象にはなりにくい。

◆ 投信のライバルか、共存か

そんな中で、米国や欧州、そして一部アジア市場で活況を呈しているETFは、グローバルな運用を考える向きには絶好の運用手段であると言える。現在、日本国内の証券会社の中にも楽天証券やイートレード証券など、海外ETFを扱うところが増えているが、品揃えという意味ではまだ不十分と言わざるを得ない。但しそれが変化するのは時間の問題だろう。

ちょっと海外に関心のある個人投資家は、既に海外でのETF直接購入を活発に行っているようだ。外向き運用のトレンドは加速傾向にある。海外ETFを扱わないネット証券や投信販売にこだわる地銀などが、急変する環境に敗れる時代が来るかもしれない。為替市場でも証拠金に代わる外貨ETFなどが誕生しており、まだ小規模ではあるが、これが市場構造を変革する可能性もないではない。

米国では、ETFの将来性に関する意見は分かれている。ETFのカテゴリーがよりアクティブに、より複雑になるにつれ、コストが増加してメリットを自ら失うことになると予測する向きもある。だが一方で、2−3年のうちにETFがMutual Fund産業を脅かす存在になるだろうとの予測もある。どちらが正しいのか、私には判断できないが、少なくとも日本におけるETF市場がまだ相当過小評価の段階にあることは間違いない、と見て良いだろう。

2007年06月22日(第149号)