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◆金融不況は長期化するか

◆ 危機の悪循環

内外資本市場は、欧州債務つまりは「国家の財政危機」という話題で持ち切りだが、それは同時に金融危機でもあることを忘れてはなるまい。リーマン・ショックから、世界は金融危機、経済危機、財政危機、政治危機という局面を浮遊しながら再び金融危機へと向かう悪循環に陥っているからだ。財政危機も、ユーロ圏にとどまらず日本や米国の問題にもなりつつある。

筆者が2010年に上梓した「危機第三幕」で指摘したところの「第三幕」が、漸く幕を開けつつあると言って良い。この第三幕は切れ目のない長い公演になるだろう。処方箋の効果が薄れてきたのに加え、危機が「社会運動」を孕むものとなってきたからだ。その社会運動が政治だけでなく金融に向かっているのも懸念される。金融ビジネスは収益的に既に下り坂に入っているが、それにブレーキが掛からなくなる可能性を考えねばならなくなっている。

金融の収益力低化は、主要米銀の決算を見れば明らかだ。因みに昨年第3四半期の数字は、下記の通りである。

これはかなり厳しい状況である。第4四半期はやや持ち直したようにも見えるが、低収益性トレンドは依然として続いていることが明らかになった。

金融業がV字回復ではなく低迷期に入ったことは恐らく誰の目にも明らであろう。問題は、これがいつまで続くかである。通常であれば、景気サイクルの波に乗った景気回復プロセスにおいて金融業の収益性も回復してくる。だが、米国では2009年6月に景気後退が終了した筈なのに、金融業は回復するどころか低迷から抜け出せない状況にある。欧州に至っては、景気後退入りや国債評価損の増大でこれから銀行危機が発生する可能性が囁かれている。

昨年20万人を超える大量解雇を実施した欧米銀行は、今年に入ってもまだ人員削減の可能性を示唆している。実質的に国有化されているRBSは、現物株部門の閉鎖などを含めた投資銀行の

大幅削減を決定した。Societe Generaleも追加リストラを示唆しており、今後はスペインやイタリアなどの大手でも縮小の動きが予想される。収益回復の遅いバンカメは年初早々に各部門の縮小と経費削減を発表、ゴールドマンは明確に人件費削減の方向性を打ち出した。銀行苦悩の時代は、いま始まったばかりなのかもしれない。

◆ 市場経済の逆回転

銀行の将来性を考える際には、やはり原点に帰って考えるのが良いだろう。なぜ経済社会は銀行を求めたのだろうか。カネの貸借を見慣れた現代人には、カネの偏在つまり富の蓄積と欠乏が必然的に銀行を生んだのだ、と古代・中世の時代を思い浮かべるかもしれない。だが、銀行の起源とはお金持ちが貧乏人に貸すという消費者金融型モデルではない。

定説に近いのは、15世紀のジェノバに生まれた遠隔地交易に伴う信用仲介であろう。今でいう貿易金融が、銀行の原型である。商品の売り手と買い手の間に起こる資金過不足の溝を埋めるのが、所謂BANCOの役割であった。それは、キリスト教会が禁じていた金利の授受を、為替手形という外国為替取引の中に埋め込んでしまう、という中世流の離れ業でもあった。

銀行の重要な機能は、やはり売り手の資金確保を手助けするという側面(もちろん、それは買い手の資金調達を助けるということでもあるが)であった。それに付随する金融手形はその後英国マーチャントバンクの十八番になったが、設備投資などの大型資金調達という貸出は、いわば金融の二次的な姿である。つまり、本来の金融は、現代人が銀行に対して抱く「預金あるところに貸出あり」ではなく、「交易あるところに銀行あり」というものであった。すなわちマーチャントバンクが原型なのである。

それを現代に翻訳すると、市場交換取引が活発化・活性化するには金融機能が必要だ、ということになる。つまり市場経済の拡大だ。投資銀行も商業銀行も、市場経済に比例して発達するのである。投資銀行であれ商業銀行であれ、今後の金融業の可能性や潜在性を探るには、市場経済がどういう方向で動いていくのかを考える必要があるのだ。

それは銀行が置かれた地域性に依存しよう。地方銀行であれば、その自治体周辺の市場経済の行方が経営を大きく左右する。それについては、今月号の多胡氏の小論が参考になるだろう。大手金融であれば、やはりグローバリゼーションの進行性が最大の要素となる。1980年以降の規制緩和とグローバリゼーションの本格化が、大手金融機関の経営に追い風となったことは、銀行起源の観察から自明のことであろう。市場経済拡大は、金融拡大と殆ど同議なのである。

だがいま、金融は自己資本強化やトレーディング縮小など規制強化の波に晒されている。さらに、潜在成長率未達やデレバレッジ、或いは流動性の罠といったネガティブなサイクルに落ち込んだ世界経済は、グローバリゼーションからやや背を向けて、自国経済優先の保護主義化へ向かおうとしている。為替市場では、近隣窮乏化策の自国通貨安誘導という形で、特にそれが顕著になっている。

このグローバリゼーションの逆回転が、大手金融にとって如何に厳しい逆風となるか、まだ想像できないかもしれない。3年間縮小を続けた金融業界には、そろそろリストラ効果が出てくると期待する声もある。確かにそうしたプラス面にも目を向ける必要はあろうが、経済の流れを鳥瞰すれば「金融不況」が終焉したとは言い難いように思われる。

市場では、投資銀行ビジネスの苦境が伝えられているが、個人的に言えば、投資銀行の方が身軽であり柔軟な対応が可能なため、ダウンサイジングによる回復力はありそうに見える。一方で商業銀行の時代適応には時間が掛り、日米欧ともに再編・清算を含めた大型なリシャッフルが必要になるのではないか。そこには、国債保有問題も絡んでくる筈だ。現時点において、「金融冬の時代」の終焉を予想するほど難しいことは無い。

2012年2月16日(第008号)